揃七

 最近、七人隊の衆の内で流行っている遊びを一つ紹介しよう。
 まず、頭数を揃える。
 一人でなければ、二人から七人まで何人ででもできる。
 さいころを二つ用意する。
 勿論、この賽ころには細工などしてあってはならない。
 賽ころを用意したら、遊ぶ者全員で頭をつき合わせて輪を作って座る。
 二人なら向かい合えばよいが、こうやって皆が近い場所にいるということは、イカサマの防止のために必要なのである。
 そして一人ずつその二つの賽ころを振ってゆき、出た目と、その合計は覚えておく。
 全員振り終わったところで一番目の合計の大きかったものが最初の親になる。
 もし一番大きい合計が同じ数で二人以上いれば、二つの賽ころそれぞれで出た目の内大きい方の数を取り、その数の一番大きいものが親である。
 それさえも同じ数だというなら、もう一度全員振り直す。
 そうやって親を決めたら、さて、ここからが本番である。
 親は二つの賽ころを持ち、残りの者が賭け金を出すのを待つのである。
 ま、ようするに博打なのだ。
 博打なのだが、といって皆そうそう懐が温かいわけでもなく、たいてい賭けるのは小銭程度である。
 菓子や夕飯のおかずといった食い物さえ賭け金として扱われることもある。
 そういえば握り飯や干し柿を賭けたこともあった。
 …少し話がそれてしまったようだ。
 元に戻そう。
 で、親以外の者は賭け金を出すわけだが、これはとくにいくらとは決まっていないので好きなだけ出せばよいし、無論賭けなくてもいい。
 賭け金が揃ったら、親が二つの賽ころを一緒に振る。
 ここで勝負が決まるわけで、このとき出た目の合計によって結果は次の三通りである。

 一、出た目の合計が七、もしくは二つの目がゾロ目であれば親の勝ち。親以外の者は賭けた分を親に払う。
 二、出た目の合計が七よりも大きければ親の負け。親は、親以外の者にそれぞれ賭けていた分と同じ額を払い、親は一つ右にいる者に交代。
 三、出た目の合計が七よりも小さければ引き分け。親は一つ右にいる者に交代。

 つまり、賭け金が大きければ親から払われる金も大きいが、自分が負けたときに払う金も大きいということだ。
 ここんところが賭け金を出す方のサシの良さが問われるところである。
 ちなみにこの三通りの勝負結果、それぞれの結果になる確率はきちんと三分の一ずつになっている。
 ところで親が勝った場合、上の勝負の結果には「一つ右にいる者に交代」という文がない。
 親が勝った場合、そのまま賭け金を貰ってもいいのだがそこで、
「裏」
 と、言うと、
「返す」
「…俺はやめとく」
「何だよ霧骨、早ぇな」
「だって睡骨は妙に裏に強ぇんだもんよ。蛇骨てめえこそ、そんなに賭けてんのに裏ぁ返して大丈夫か?」
「いいんだよ」
 …とまあそんな感じで、ようするに二回戦に突入というわけだ。
 親が「裏」と言った場合、親以外のものはそこで勝負を抜けてもいい。
 その場合、誰か一人でも裏を返す…つまり二回戦に参加すれば、抜けた者は一回戦で負けた分も払う必要は無いが、もし全員が勝負を抜けたときは二回戦は行われないので、全員が一回戦で負けた分を支払わなければならない。
 また裏を返す者は、必ず賭け金を倍にしなくてはいけない。
 賭け金を倍にした上で、もう一度賽ころを振って勝負である。結果は一回戦と同じ三通りだ。
 つまり裏を返して親が勝てば親は倍になった掛け金を貰えて、親が負ければ倍支払う。
 引き分けた場合は、何もなく親は交代。一回戦で勝った分もちゃらになって貰えない。
 さらにここで親が勝った場合、
馴染なじみ
 と、言うと、
「…くそっ、付けるよ!」
「おい蛇骨、その辺にしといた方がいいんじゃ……」
「おめーは黙ってろよ、霧骨」
 …とまあそういう感じで、三回戦もあり、やり方は二回戦と同じである。
 つまりだ、一回戦で親が勝った場合、その後裏を返して(二回戦)馴染も付ければ(三回戦)、親にも親以外の者にも最高で四倍の賭け金が手に入る可能性があり、同じ確率で四倍の散財となる可能性があるというわけだ。
 それに最初はなから十文賭けてきた奴と二文賭けてきた奴がいたとして、たとえ親が勝って裏が返されたとしても、十文賭けてきた奴が抜けてしまえばそれだけで親にとっては損になる。一回戦でやめれば十二文手に入るのに、下手に続けたせいで後は最高でも八文になってしまう。
 というわけで、その辺それなりの心理的駆け引きなんかが必要になる遊びなのだ。
「だからやめとけって言ったじゃねぇか」
「うるせーよ」
 けっ、と、軽くなった袂を抱えて蛇骨が不貞腐れた顔をすると、逆に重くなった懐を押さえて少なからず嬉しそうな様子で、睡骨が言う。
「蛇骨、おまえ丁半博打は強ぇのに、しちゾロになると散々だな」
 七ゾロ、とはこの遊びの呼び名であるらしい。
 七とゾロ目が親の勝ち目だから、そう呼ぶのであろう。
「こいつ丁半のときはいかさましてんだよ。ゾロ七じゃあ、いかさまだけじゃ勝てねえからな」
 ゾロ七、とも呼ぶらしい。
「イカサマなんかしてねーよ! だいたい霧骨てめえ、そういうのはその場をな、押さえねえと駄目なんだぜ」
「細工のしてある賽ころでも使ってんじゃねぇのかぁ?」
「誰が使うかよ、んなもん」
 睡骨が蛇骨を見て薄ら笑いを浮かべる。
「おまえが七ゾロに弱いのは、あれだ、ここが弱いんだろう」
 指で額の端をとんとんと叩きながら言う。
「どーいう意味だよっ! てめえっ」
「そういう風に、すぐ熱くなる。特に相手が俺たちだと、けしかけられたら乗らずにゃいらんねぇんだろう、おまえ。兄貴たちには下手したてに賭けて出るくせによ」
「だ…だってそりゃ、兄貴たち強ぇんだもん」
「というより駆け引きが上手いんだろうな。どこで手を引くか…どこまで粘れば儲けが大きくなるかを判ずるのが上手い」
「…煉骨の兄貴はともかくとしてもよぉ」
 霧骨が言う。
「蛮骨の大兄貴が強いのはちょっと意外だ。大兄貴はもっと大雑把な遊び方してくるかと思ってたけどなぁ」
「大兄貴は、あれでなかなか切れ者だからな」
 と、睡骨が頷くと、
「ていうか、負けず嫌いなんだよ、蛮骨の兄貴は」
 そう、蛇骨がまるで肉親のことでも語っているように、言った。
「三年も一緒にいりゃ分かるだろ」
「そりゃまあ、そうかもしれねぇが……」
「特に煉骨の兄貴が絡んでくるとよ、ったくガキみてえに意固地いこじになってやんの」
 睡骨が頷く。
「煉骨の兄貴もだな。傍目には分かりにくいがよ、あれで存外意地っ張りらしい。こと大兄貴が絡んでくると」
 それを聞いて、霧骨が、少しばかり沈黙した後ぼそりと言った。
「睨み合い出したら、おまえら以上に厄介、か……」
 睡骨と蛇骨は互いに顔を見合わせ、
「かもしれねぇ」
 と、どちらともなく呟いた後、揃って沈黙する。
 沈黙してしまうような事態に、今の七人隊は陥っていた。


「じゃあ俺のせいだって言いてぇのかよ、てめえ」
「あんたのせいじゃなかったら、他に誰のせいだっていうんです」
「てめえだって、いいって言ったじゃねぇかよ」
「いいとは一言も言ってない。あんたが無理に押し切ったんだろうが」
 煉骨が、憮然とした態度で吐き出すように言う。
「おかげで、戦に負けて敵軍から追われる身だ、報酬受け取るのもままらない内に。高見の大将が懇意でかくまってくれたからいいもの、これ以上有力な大名が相手だったら、今頃討伐隊でも起こされて全員討たれてるかもしれねぇんだ」
「…だいたい、一度雇い主だった侍のところに駆け込もうって根性が気に入らねえんだよ」
「何を……」
「だって勝算はあったじゃねえか!!
 蛮骨が、煉骨の方をきっと睨みつけて言った。
「そりゃ敵城の方が金もちからも持ってたけどよ、てめえの言う通り。でもこっちの城だって兵はそう大差があったわけじゃねえ。それにこっちの軍師の方が頭が切れたんだ。途中までは勝ってたんだよ、ちゃんと」
「だからって総大将が降伏しちまったら意味がねえ! 必ずしも戦に勝った方が得をするとは限らないんだよ。金で買われて折れちまう大将もいる。だから買うだけの金がある城につけば良かったと言ってるんだ!」
「それじゃ俺たちが参戦する意味なんも無いじゃねえかよ、金で勝負が決まるってんなら! どっちの城からの仕事も断って次の仕事探せば良かっただろ。そうすりゃ高見の親仁の所なんかに駆け込まずに済んだんだ」
「怪我人三人も四人も抱えて、やっとのことで息のつける所に入れてやったのにその言い草はねぇだろう。それに今の俺たちは食ってくのもぎりぎりなんだぞ、そんな悠長な真似ができるか。……それとも、大兄貴」
 煉骨が、少し品の無い笑い方をした。
「あんた客でも取って稼ぎますか。今度の戦の時も年配の武将の方にえらく好かれて﹅﹅﹅﹅たようだが」
「何をっ……」
「まだ十七でそれだけ器量のいいあんたなら、さぞや高く売れるでしょうよ」
「…てめえっ」
 顔を赤くして、蛮骨が歯噛みをする。
「煉骨、よくも俺に向かってそんなことが言えるもんだな、あぁ? てめえ、誰に向かって口利いてると思ってんだ!!
「俺はもしもの話をしただけだ。何も本気にしろとは言ってない」
「聞く耳持たねぇよ」
 低く、地面の中にまで溶け落ちていきそうな声で言いながら、蛮骨が両手の指の関節を一度ずつ鳴らした。
「…やるのか」
「嫌ならてめえが頭下げるんだな」
「……」
「下げるんならさっさと下げろ」
「…冗談じゃない」
 ふん、と、煉骨が鼻を鳴らす。
「どうして俺が」
 軽く右足を引いて、身構える。
 蛮骨が両手を握って、腰を落とす。
「弔いの用意はいらねぇのかよ」
「……」
 煉骨が僅かに眉をひそめた。
 小さくその身を引く。
「てめえとやるのも久しぶりだ」
 言うなり全く手加減無く蛮骨が踏み込んだ。
 一気に煉骨の懐の内に踏み込んで、左手でえりを引っ掴むと握った右手を引く。
 それが顔に飛ぶ前に、煉骨は蛮骨の奥衿を取った。
 そして引いていた右脚を蹴り上げようとした時、不意に、蛮骨が何かに気がついたように煉骨から身体を離した。
「蛇骨だな!?
 蛮骨が振り返った方向に、煉骨も視線を向けた。
「何の用だ」
 部屋の隅の柱の陰に隠れるようにして、蛇骨が立っている。
「…いや、その」
 言う声が、かすかに震えている。
 蛇骨は、纏っている着物の右袖を捲り上げて、その右の二の腕を蛮骨と煉骨に見せるようにすると、
「俺、まだこんな腕だから、ここ出てっても仕事は……」
 と、消え入るような声で言った。
 蛮骨が、忌々しげに言う。
「睡骨あたりの入れ知恵だな」
「……」
「ふん」
 吐き捨てるように言って、蛮骨が踵を返した。
 ずかずかと大股で部屋の襖の前まで歩み寄ると、大きな音を立ててそこをくぐり、部屋を出て行く。
「蛇骨」
 煉骨が蛇骨を呼んだ。
「な、何?」
「さっさとね」
 有無を言わさぬ声音であった。
「……」
 蛇骨は黙ってもと来た道を、睡骨や霧骨のいる部屋へと通じている廊下を、とぼとぼと浮かぬ足取りで戻り始めた。


 布の巻かれた二の腕をさすりながら、蛇骨が物憂い声を上げる。
「怖かったなぁ、兄貴たち。本当に殺し合いにでもなりそうだったぜ」
「素手で人が殺せるからな、あの二人は」
 睡骨が、同じように布の巻かれた左肩の辺りを撫でながら言った。
 その上睡骨は、左腕を首から布で吊られている。
「だが実際、派手に喧嘩でもされてここを追い出されても困る。そりゃ確かに高見の大将の世話になるのもそう楽しくはない話だがな、俺たちがこの身体じゃあどうにもならねぇ。それにまだ、敵城の方も俺たちを追っかけんの諦めてねえだろう」
「高見のおっさんが、大名にとりなしてくれるよーに掛け合ってる真っ最中なんだろ?」
「侍の世話になるなんざ、虫の好かねぇ話だ」
「しかしよぉ」
 と、霧骨が天を仰ぎながら言う。
「二つの城からいっぺんに仕事頼まれて、どっちかについたらそれが負けたっていっても、
しょうがねえよなぁ、今度の場合。両方の城とも大差ねえ力だったんだし、どっちにつくかなんてほとんど一か八かの賭けみたいなもんだろ」
「だが金の話なら、敵城の方が勝ってたんだ。俺たちへの報酬は似たようなもんでも、その元の懐の具合は大差あったらしい」
「でもよ睡骨、それじゃあ確かに大兄貴の言う通り、俺たちが戦に出る意味がねえよ。金で解決できるのが最初はなから分かってんなら、俺たちが戦う必要ねぇだろう」
「仕事をしなきゃ、稼げねぇよ、そうは言っても」
「…運が悪かったんだ」
 蛇骨が口を挟んだ。
「負ける城についたのも、俺たちが、揃いも揃って珍しく戦で手負いになったのもさ」
「運も実力のうちだって言うぞ」
「うるせぇよ」
 睡骨が溜め息混じりに言う。
「まあ、蛇骨の言う通りに考えた方が随分気は楽だ。それよりも、そろそろ俺達も先の身の振り方でも考えておいた方がいいかもしれねぇな」
 それを聞いてきょとんとした表情で、蛇骨が聞き返した。
「身の振り方?」
「蛮骨の大兄貴と煉骨の兄貴がいよいよ不仲になって、離縁でもすることになったらどうするかってことだ」
「離縁って……」
 蛇骨が呆れた顔をして睡骨の顔を見る。
「おめえ、よくこんなときに冗談言ってられるなぁ。俺ときどき分かんねーよ、おめえが何考えてるか」
「蛇骨に言われちゃおしまいだなぁ、睡骨」
 睡骨の冗談にはさして興も湧かないようすで、霧骨は視線を上のほうに遣って、何か考えているようである。
「…離縁ならまだいいけどよぉ、もし片方が片方殺しちまうようなことになったら俺たちどうなるんだ?」
「殺……っておい霧骨、縁起でもねぇこと言うなよ」
 蛇骨が顔をしかめると、しかしその横で睡骨は真面目な顔をして言う。
「あり得る話じゃねぇか。どっちが欠けてもおかしくなるぞ、七人隊ここは」
 それを聞いて蛇骨がますます顔をしかめる。
「どっちが欠けんのも嫌だよ、俺は」
「別に俺達だって欠けて欲しいわけじゃねぇけどなぁ。なあ睡骨」
「あぁ」
 ふう、と軽く息をついて睡骨が続けて言った。
「蛇骨に割って入らせりゃ、頭に上った血も下がるかと思ったんだけどな」
「…止めに入った俺の方が殺されるんじゃないかと思ったぜ。兄貴たち、殺し合いにはならなかったけどよ」
「だがまだ臨戦態勢だ。顔合わせるたびにぴりぴりしてやがる……おまえは一番あの二人と付き合いが長いし、いけると思ったんだがなぁ」
「俺だって初めて見たんだぜ、あの二人があんなになってんの。煉骨の兄貴なんか特にさぁ、蛮骨の兄貴と組み合ってるところ見ることになるなんて思わなかったよ。絶対手なんて出さないもんだと思ってた」
「…なんでそう思うんだよ」
 言いながら霧骨が表情の無い顔で蛇骨を見る。
「だって蛮骨の兄貴だぜ、手なんか出すわけ……」
「おまえと煉骨の兄貴は違う人間だぞ」
「……」
「そも歳だって上の煉骨の兄貴が、どうして大兄貴を兄貴って呼ぶんだろうな」
「霧骨、それは俺に言ってるのか」
 睡骨が問い返すと、霧骨は、
「あ、そういやそうか」
 と気がついたらしい。
「おまえもあの二人より年上か。蛇骨も大兄貴よりは上…って、俺もだな。人のことは言えねえなぁ」
「歳なんてどうでもいいじゃねーか」
 荒っぽく蛇骨が答えると、睡骨もそれに頷く。
「俺だってそう思うが……しかしまあ、確かに煉骨の兄貴は、はっきり言ってわざわざ大兄貴にくっついてなくても十分やっていけるだろうにな。大名武将悪党どもからも引く手数多じゃねえか、実際」
「それを全部突っぱねてでも、七人隊ここにいて何かいいことあるのかね、兄貴には」
「黙れよ霧骨」
 多少苛ついた声を、蛇骨が上げた。
 そして面白くなさそうな顔をして、ぶすっと黙り込む。
 自然と、睡骨と霧骨も口をつぐんだ。
「……煉骨の兄貴も蛮骨の大兄貴も、引っ込みがつかなくなっちまったのかな」
 ぼそ、と霧骨が呟いたが、蛇骨も睡骨も答えなかった。
 そのまましばらくの間、誰も口を利かなかった。
 蛇骨が手の中で二つの賽ころを転がしている。
 その音だけが聞こえている。
 からからと軽い音だけが、辺りを満たしている。
 と思えば、蛇骨がいきなりその賽ころ二つを宙に、真上に放り投げた。
 投げた賽ころが落ちてくるところを横から、はしと掴み取って言った。
「あった、いいこと」
 きょとんとした睡骨と霧骨に向かって、
「煉骨の兄貴は七人隊ここにいりゃいいことあるじゃねえか」
 と、真面目な声で蛇骨が言う。
 霧骨がつられるように真面目な声で聞き返す。
「何だよ、それ」
「分かんねーのかよ、馬鹿だな」
 むっとして霧骨が言い返そうとするのを遮って、蛇骨が続けた。
「俺たちがいる」
「……」
「銀骨も凶骨も、もちろん蛮骨の兄貴だっているだろ。それ以上に面白いことあるかよ」
 それを聞いて、睡骨が苦笑した。
「一理あるな」
「…そりゃぁそうかもしれねぇがよ」
 言いつつ、霧骨もにやにやと笑い出している。
「なあ」
 蛇骨が、
「俺思ったんだけど、取っ組み合いになるから、殺し合いになりかねねぇんだよ」
 と、張りの抜けた落ち着いた声で言って、右手を広げて掌を睡骨と霧骨の方へ向けた。
 その人差し指と中指、中指と薬指の間にそれぞれ賽ころが一つずつ挟まれている。
「取っ組み合いにならねえように、決着付けさせりゃいいんだ」
 睡骨と霧骨が、どちらからともなくお互いの顔を見合わせた。


 部屋に一歩入ったところで、蛮骨は脚を止めた。
「ほら兄貴早く奥入ってよ」
 後ろから急かしてくる蛇骨を、半目で睨む。
はかったな、てめえ」
「そうだよ。さっさと入んなって」
「ちっ」
 しぶしぶ、蛮骨は部屋の真ん中まで足を運んだ。
 蛇骨は、蛮骨から離れて部屋の縁側に面している障子を開け放って、その傍に腰を下ろす。
 部屋の中には睡骨と煉骨が座している。
 部屋の中に入ってきた蛮骨を見て煉骨が睡骨に視線を向けたが、睡骨は知らん振りでもするようにさっとその視線を避けて横の方を向いていた。
 煉骨の正面に、蛮骨は黙って腰を下ろす。
 蛮骨の右手…煉骨から見れば左側に睡骨は胡坐を掻いて座っている。
「睡骨」
 煉骨が、心なしか怒気を含んだ声で呼んだ。
「首謀はてめえか」
「さあ。必要なら五人で連判状でも用意するぜ」
「…何をするつもりなんだ」
「するのは俺たちじゃない。兄貴たちだ」
 と、その時、縁側に面した庭から銀骨と凶骨が、その縁側からは霧骨が姿を現した。
 それぞれは蛇骨が座している辺りに腰を下ろすと、部屋の中の三人を見やる。
 蛮骨が不思議そうな顔をして、睡骨に尋ねる。
「全員集めて、俺と煉骨に何やらせようってんだ?」
「大兄貴と煉骨の兄貴が不仲なのは往々承知だが、それもはっきり言わせて貰えば、俺たち五人には迷惑な話だ。俺や蛇骨や霧骨…まあ大兄貴もだが、この間の戦の傷も癒え切らない内にこんなことになりやがって、正直に言って困る」
「…だから?」
「だからさっさと決着をつけてもらう」
 言いながら、睡骨が何やらごそごそと懐の中を探り始めた。
 そうして取り出されたものを見て、蛮骨と煉骨が揃って首を傾げた。
「賽ころ?」
 取り出した二つの賽ころを床に置いて、睡骨はさらに懐の奥を探り、いくつかの分厚い束に分けられている掌の半分ほどの大きさの木の板札を取り出した。
「一人五十枚ずつだ。その束一つで二十五枚だから、一人二つ……」
 板の束を蛮骨と煉骨の間に放り投げながら、睡骨が言う。
「賭ける物は兄貴たちの意地とかまあそんなところだな。負けた方が素直に折れるこった」
「…なるほど」
 二つの板の束を手にして蛮骨が頷く。
「で? 勝負は何だよ」
「ゾロ七だ。お互いに二十回ずつ親をやって、最後にその持ち板の数の多い方が勝ちだ」
「ふん」
 蛮骨が手元の賽ころを掴み上げた。
「煉骨、先に振るぜ」
「どうぞ」
 お互い視線は交わさないまま、蛮骨が賽ころを振った。
 六の目と三の目が出た。
 続けて煉骨が賽を振る。
 五の目と二の目だ。
 それを見て睡骨が、
「そうだそれから、できるもんならイカサマでもなんでもござれだ。ただしばれたらその場で負け、いいな」
 と言うのと、煉骨が十枚ほどの板札の束を膝の前に置いたのと、同時であった。


 からっ。
 蛮骨が振った賽ころが乾いた音を立てる。
「…裏」
「返す」
 かちっ。
 と、煉骨が積み重ねた板札が小さく鳴る。
 からっ。
「ちっ」
 煉骨が小さく舌を打つ。
 蛮骨が静かに煉骨の膝の前に積まれている板の束を掴み取る。
 その内の半分を、自分の膝の前に置く。
 かちっ。
 からっ。
 引き分けて、煉骨が仏頂面のまま賽ころを蛮骨に投げてよこす。
 何も言わずに板を積む。
 かちっ。
 からっ。
「裏」
「降りる」
 蛮骨が煉骨の板束を取って自分の板札を積む。
 かちっ。
 からっ。
「裏」
「返す」
 かちっ。
 からっ。
「…馴染」
「付ける」
 かちっ。
 煉骨が賽を振った。
 からっ。
 蛮骨の顔が、一瞬曇る。
 蛮骨の膝の前の、かなり高く積み上げられていた板の束に煉骨が手を伸ばした。
 ただ賽と板の乾いた音と、蛮骨と煉骨の声だけがその場を満たしている。
 睡骨も蛇骨も、残りの五人は一言も発することなくただじっと兄貴分二人の様子を見つめている。
 僅かな音でも、まるでそれを禁じられているように、誰もが気を払って立てようとしなかった。
 そんな風な中で、蛮骨と煉骨はお互いに十八回ずつ親をやり終えたのであった。


 十九回目は互いに引き分けた。
 そして最後の二十回目に入ろうというところで、蛮骨、煉骨それぞれの手持ちの板札はそれぞれ十八と、三十二枚。
 蛮骨が賽を振る番だった。
 煉骨が手持ちの札の内から三枚ほど分けて取り、膝の前に置いた。
「……」
 少ない、とでも言わんばかりの顔を蛮骨がする。
 煉骨はそれには応じるつもりはないようだった。
 仕方なく、蛮骨は賽ころを振った。
 からっ、
 と乾いた音を立てて、賽ころが転がっていく。
 ピンの目と、六の目が出た。
 ピンとは一のことであるので、合計は七で蛮骨の勝ちだ。
 それと分かるとすぐに、
「裏」
 と、蛮骨が言う。
 煉骨はしばらく考えている様子であったが、
「返す」
 と言って、
 かちっ、
 と音を立てて膝の前の板束の上にもう三枚ほど札を重ねる。
 蛮骨が賽ころを振る。
 ころころと転がって、二つの賽ころが出したのはともに六つの面で唯一朱い目……つまりピンのぞろ目である。
 蛮骨が僅かに口の端を持ち上げた。
「馴染」
「……」
 煉骨は黙ったまま二つの賽ころを見つめた。
 二回負けてしまったとはいえ、まだ取られる札の数は六枚ほどである。
 それならば、たとえ取られても蛮骨はそれで二十四枚、自分は二十六枚で、自分が優勢なことに変わりはない。
 だがこれはまだ最後の勝負ではない。
 最後に、もう一度俺が振らなければならない。
 その時にもし蛮骨が勝てば、俺の負けは確実だ。
 そうならないためには……ここで馴染を付けて勝つより他無い。
 次で勝つことができれば、蛮骨の札は六枚まで減らせる。それなら、もう俺の勝ちで決まる……だが負ければ……
「……」
 蛮骨は、じっと煉骨の持ち札の山を見つめている。
 馴染と言ったからには、蛮骨自身は勝負を抜けられない。
 煉骨はここで馴染を付けてくる、という確信があったわけではない。
 だがここで勝負を抜けたところで、煉骨の手持ちは二十六枚で俺の手持ちは二十四……馴染を付けて俺が勝てば手持ちはそれぞれ二十と三十。
 そうなれば俺の勝ちだが、馴染を付けて俺が負ければ、手持ちはそれぞれ四十四と六になって俺の負けが決まる。
 勿論馴染を付けて引き分ければ手持ちの数は変わらないが……煉骨が次の勝負…自分が賽を振る番まで勝負を持ち込むつもりなのかどうか。
 持ち込むつもりなら降りるだろう。降りなければ……
「付ける」
 煉骨は言った。
 蛮骨が、強く手の中に握り締めていた賽ころを振った。
 勝負が決まるのか……
 七人全員が、食い入るように賽の行方を追った。
 ほんの、三つ数えるか数えないかの間である。
 転がりながら位置を入れ替える二つの賽の目を凝視していた蛮骨と煉骨が、周りの五人に出目がこれと分かる直前に、
「くそっ!」
 と、同時に、吐き出すように呟いた。
 出た目は、二の目と三の目だった。
 引き分けだ。札の数は変わらない。
 蛮骨が二つの賽ころを煉骨に向かって放り投げ、煉骨は膝の前に出していた板束を再び手持ちの板の中へと戻す。
「賽ころが止まる前に出目が分かるってぇのは、一体兄貴たちどんな目してんだか……」
 霧骨が小さな声で言ったのを、
「黙ってろよ」
 蛇骨がたしなめた。
 とうとう、最後の勝負である。
 煉骨が賽を振り、蛮骨が札を出す番だ。
 蛮骨は躊躇うことなく、板札十八枚すべてを、膝の前に置いた。
 どうせ一回で勝負は決まる。
 それなら全部賭けてやろう、と、蛮骨らしいといえば蛮骨らしいのであろう潔さである。
 確率的には、蛮骨の方が不利だ。
 三分の二の割合で負ける。
 煉骨が七より大きい合計数を出すより他に、勝つ術は無い。
 だが、諦めるにはまだ早い、という思いが蛮骨にはある。
 最後の最後に賽が転げて目を出すまで、勝負なんかわかりゃしない。
 煉骨の手の中で、から、と賽が音を立てた。
 七以下かぞろ目なら勝てる。
 大丈夫だ。
 煉骨の手の中から、賽が宙を舞って、落ちた。
 からっ。
 七人が一斉に身を乗り出した。
 ことこと、と、二回ほど賽ころは転がった。
 片方の目は六に止まった。
 そしてもう片方も今にも動きを止めようとしている。
(勝った!!
 蛮骨は心の中で叫んだ。
(負けたか!?
 煉骨が息を呑んだ。
 二人の視線がまさに目の出ようとしている一つの賽ころの上で、交差した。

 五……!!

 五の目を天に向けて、賽が動きを止めようとした。
「あっ馬鹿凶骨よっかかるんじゃ……!!
 その時であった。
「うわっ!!
 がらどしゃばきどぉぉん。
 そんな音だったような気がする。
 材木が折れて板が割れる音と地響きが同時にして、屋敷の中が一瞬地震でも起きたかのように揺さぶられた。
 動きを止めかけていた賽ころが、
「あっ」
 さらに、こてん、と転がって六の目を出した。
「……」
「…俺の勝ちだ」
「なっ、だってさっきは……」
「往生際が悪いですよ大兄貴。最後に出たのは六のぞろ目だから俺の勝ちだ」
 睡骨が顔を上げると、蛇骨や霧骨のいる縁側の床板が凶骨の巨体によって綺麗にぶち抜かれているのが見える。
 蛇骨と霧骨が柱にしがみつくようにして、その一撃から逃れている。
「馬鹿、凶骨、だからこっちよっかかんなって言ったじゃねーか……」
 どうやら、蛮骨と煉骨の勝負の行方が気になって屋敷の中にまで凶骨が身を乗り出したらしい。
 そのとき床板の上にかけられた凶骨の体重おかげで縁側に大穴が空いたのだろう。
 唖然としてその惨事の跡を見つめている睡骨の視界の中で、蛮骨が勢いよくその場に立ち上がった。
「大兄……」
 一番近くにいた睡骨でも、止めに入る暇は無かった。
 立ち上がる勢いそのままに力いっぱい振りかぶった蛮骨の右手が、それは見事に煉骨の左頬を殴り飛ばしたのである。
 蛮骨と煉骨を覗いた全員が、そのあまりにまともに決まった右拳みぎこぶしに、あっけにとられた。
 ざっと六尺(一尺は約三十三センチ)ほど後ろに吹っ飛ばされて、それでも壁にはぶつからなかった煉骨が、ゆっくりと身体を起こす。
 その動作が終わるのを待たずに、蛮骨が煉骨に掴みかかる。
「やっぱ一発殴らねえと気が済まねえんだよこのタコ!! あんな勝負があるか!!
「勝手なこと言いやがって運も実力の内だ!!
 さっき一発思いっきり殴ったではないか、と、声を掛ける者もいない。
 まるで野犬か狼でも揉み合っているように、床が抜けるのではないかと心配になるような取っ組み合いを始めた蛮骨と煉骨を、その場に残された五人の弟分は呆然としたまま眺めていた。


 結局、その取っ組み合いは半刻ほども続いた。
 いい加減二人とも傷だらけのよろよろになって、殴り蹴り掴み合う元気も無くなったか、黙ってそれぞれ引き上げて行ったところまで残りの五人は見届けたのである。
 そして一晩が空けた。
 屋敷の中は、意外なほどひっそり閑としている。
 おかげで、
「どーするんだよ、これから」
 という、蛇骨の声がいやにはっきりと聞こえてくる。
 蛮骨と煉骨以外の五人は、一つの部屋に集まって、揃って難しい顔をしている。
 といっても凶骨と銀骨は、やはり縁側の外であるが。
「結局ゾロ七なんかじゃ勝負つかなかったなぁ」
 憂鬱そうな声で霧骨が言う。
「いけると思ったんだがな」
 睡骨の声も心なしか暗い。
「ぎし」
「結局取っ組み合っちまったもんなあ」
 銀骨と凶骨が喋るたびに、辺りの空気が震える。
 霧骨が、
「やっぱ本気で今後の身の振り方でも考えた方がいいんじゃねえか」
 と言うと、蛇骨が、
「馬鹿っ、そう簡単に諦めんじゃねえ」
 と、目を吊り上げて霧骨を睨む。
「じゃあおまえ、あの二人をどうにかするいい考えあるかよ」
「そっ、それは……ねえ、けど」
「ほらみろ」
「だけどよ……」
 蛇骨が子供のように口を尖らせて、俯いた。
 向こうから誰かがぺたぺたと縁側の上を歩く音が聞こえてくる
 ややあって、五人の前にひょいと顔を出したのは、
「おまえら五人顔つき合わせて何やってんだ」
 蛮骨だった。
 右の頬に膏薬の布を貼って、両手の甲にもまた別の布をそれぞれ巻いている。
 よく見ると、肩口やら足首やら、体中そんな様子らしい。
 昨日の大喧嘩の置き土産であろう。
「なあ、煉骨部屋にいるか?」
 煉骨、という言葉に、五人が揃って息を呑んだ。
「…おそらく、いると思うが」
 睡骨が恐る恐る答えると、そうか、と頷いて蛮骨はその煉骨の部屋へと向かって歩きだす。
「おい煉骨、いるのか」
 蛮骨の声を聞きながら、三人は顔を見合わせた。
 うん、と頷き合い、五人揃って煉骨の部屋の前へと足音を忍ばせる。
 蛮骨は部屋の中に入ったらしく、障子は閉められていた。
 そっとそこに耳を近づけようと身体を傾けた瞬間……
「だから何やってるんだよおまえら」
 急にその障子が開かれて、睡骨と蛇骨と霧骨の三人が煉骨の部屋の中につんのめった。
 その場に踏みとどまっていた凶骨と銀骨が、あっ、という顔をする。
 部屋の中から、
「何なんだ、銀骨や睡骨まで揃いも揃って」
 と、煉骨が部屋の中に倒れこんできた三人と、外の二人を見て言った。
 蛮骨と同様に、顔や腕には膏薬やら布やらが貼られ巻かれしている。
「それより大兄貴、高見の大将がここの領主に掛け合ってくれたおかげで追手も手を引くことになったらしいですよ」
「あ、そうなのか。やれやれやっとお侍さんの世話にならずに済むな」
「あんたたちが手傷を負わなきゃ、別に最初はなから世話にならずに済んだものを」
「うるせえ」
 けっ、と蛮骨がそっぽを向いたが、そこには昨日まで程の刺々しさのようなものは無い。
「高見の大将はもうしばらくいてもいいと言ってるが、その様子だとそのつもりはないらしいな」
「ここでしごとでもあるってんなら別だけどな」
「次はどこへ行きます。それでも、手を引くとはいえ追手とかち合うような方はやめておいた方が……」
「かち合うくらいが、鈍った身体にゃ丁度いいけどなあ」
「なら別に、俺はどっちでもいいが……」
 弟分五人は、あっけにとられてその二人の遣り取りを眺めていた。
 いつも通りだ。
 昨日までのどろどろとした関係はどこにいってしまったのか。
 まさか五人揃って同じ夢を見たということはあるまい。
「あ、兄貴」
 蛇骨が蛮骨を呼んだ。
「何だよ」
「その…煉骨の兄貴と喧嘩してたんじゃ……」
「ああ、そのことか」
 頷いて、蛮骨は、あっはっは、とでも笑い出しそうな底抜けに明るい顔で、
「いや、昨日思いっきり殴って取っ組み合ったらすっきりしたぜ」
 と言って、本当にはははと笑った。
「…えっ?」
「なあ煉骨」
 煉骨は特に答えはしなかったが、何も言わずに黙っているのは肯定と同じということらしい。
「……」
 そんなことがあってたまるか?
 何だか急に、疲労感が体を襲ってきた気がする。
 霧骨が、その場に仰向けに寝転がって言う。
「…なんだよ、じゃあ俺たち気苦労し損じゃねえかぁ」
「そんなことねえよ。おまえらがお膳立てしてくれたからまともに喧嘩できたんだ。礼が言いたいくらいだぜ」
「言われてる気がしねえよ……ちぇっ」
「本当に、あれで気が済んじまったのか」
 睡骨が念を押すように言った。
「済んだって。そうじゃなきゃ今俺ここにいねえよ」
 煉骨が、視線こそ向けなかったものの、静かに言った。
「悪かったな、おまえらまで気鬱にさせて……」
「……」
「…ま」
 蛇骨が、
「おかげで退屈はしなかったけどよ」
 と、片手を、自分の顔を隠すように前髪の中に突っ込んで答えると、
「何言ってやがる、一番こたえてたくせに」
「う、うるせえよ」
 睡骨に言い返されて、上げた顔が少し赤かった。
 その顔を見て、蛮骨と煉骨がほんの少し頬を緩めたように見えた。
 そして二人顔を見合わせて、揃って苦笑いをした。
「なあ、誰か賽ころ持ってるか?」
 蛮骨が訊いた。
「ああ、持ってるが……」
 睡骨が答えると、
「暇だからゾロ七でもやろうぜ。皆でよ」
「ゾロ七?」
「そうそう。おい煉骨、おまえも来いよ。せっかく仲なおりしたんじゃねえか」
「…いいですよ」
 素直に煉骨が腰を上げて、蛮骨と弟分五人とのいる所までやってくる。
 立春を過ぎても風はやはり冷たいが、縁側板の上に差し込んでくる日差しはぽかぽかと暖かかった。
 煉骨が、蛮骨の横に腰を下ろした。
 それを見届けてから、蛮骨が、
「やっぱ七人揃ってやらねえとな。七人揃って、これがほんとの揃七ぞろしちだ」
 と言って笑うと、それまできょとんとしていた残りの者も、つられるように小さく笑い声を立てた。

(了)