帰還の夜
久しぶりの、血の通った互いの体温を確かめ合うようなキスをして、随分経ってからようやく離れた。
ティティスが照れくさそうに笑った。背のドアへもたれかかりながら内鍵をそっと回す。
「なんだか照れるわね」
「そうだね」
とジョシュアも笑いながらうなずいた。
「久しぶりだから」
ティティスの腰へ回した手に髪を絡めてもてあそんでいる。額と耳元へ順に軽く唇を押し当てると、
「ん――」
ティティスがわずかに息をのんだのがわかった。
「だけど嬉しいよ」
「?」
「この夜がずっと待ち遠しかった」
「そんなこと言って、ジョシュア、リオンあたりに誘われて
と、ティティスが意地の悪い目つきでジョシュアの
「
「わかってるわよ」
くすくす笑うティティスの口元へ、ジョシュアは愛おしそうにもう一度キスして、
「毎晩寝床に入ると君のことばかり考えてた」
「そう言う割りには手紙はあっさりしてたじゃない?」
「だってあまり格好のいい話じゃないよ」
「あら、あたしのことを考えるのはカッコ悪いの」
「そうじゃなくて」
困ったようにはにかみながら、ジョシュアはティティスの腰に置いていた手をお尻の方へ滑らせた。
「きゃ」
ぴくっと小さく跳ねたティティスの痩身はすぐジョシュアに抱き締められ、その震えは胸の鼓動に変わった。
「ジョシュア」
「ねえ、君は――僕のこと」
「そりゃ、あ、あたしもいつも考えてたわ」
ジョシュアがほっとしたように息を吐く。
「嬉しいよ。そのときにここが
「―――」
「つまり僕が言いたいのはそういうこと、かな」
「べ、別にそれだってカッコ悪いとは思わないけど」
「そう? でもやっぱり僕は、帰ったら君に何をしてあげようかとか、どういう風にしてあげようかとか、おかしくなりそうなくらい考えてたなんて余裕がないみたいで、少し恥ずかしい」
ティティスのお尻の丸みに手のひらを沿わせる。
「あん」
ティティスは小さく跳ね上がるように爪先立ちになって、ジョシュアの首根っこにしがみついた。
「全部して――」
「ん?」
「考えてたこと全部」
ジョシュアの呼吸が乱れた。
「ティティス――」
「してくれないの?」
ティティスはもどかしそうにお腹を押しつけてきた。たまらないのはジョシュアの方だ。喉の奥でうなるようにうめいて、ティティスを横抱きに抱え上げると寝床へ放り出した。
ティティスがブーツを脱いで床へ蹴落としたのと同時に、ジョシュアは上着の襟をゆるめて乗りかかってきた。
ゆるく開いたティティスの口に吸い寄せられるように唇を
キスしながら、太ももの辺りをなでていたジョシュアの手が前の方へ回ってくる。中指の先で軽くなぞられただけでティティスはのけぞるほど感じていた。
「んんーっ!!」
そのまま小刻みにいじられているとあっという間に上り詰めそうになった。が、その直前でジョシュアは離れた。
「あ――」
ティティスの物欲しそうな声と潤んだ
「そんなふうに見つめられるとうぬぼれてしまうよ」
かすれた声でささやきながら、上着を脱ぎ、両手の手袋を外して脇へ放った。
じきに遮る物は何もなくなった。
ティティスも積極的にジョシュアに乗りかかって、キスの雨を降らせたり、胸に頭を預けて心音にうっとり聴き入ったりする。
みっしりした胸板の形を確かめるようになでる。その先を小さな舌でつついてから、腹、脇腹へ下りていく。
「あぁティティス」
ティティスの口がもっと下までさがったので、ジョシュアはこらえきれず声に出した。
「だめだよ」
「ん――どうして?」
挑発的に舌をうごめかす。ジョシュアが口ではだめだと言いつつ正直に反応するのが楽しいらしい。しかし背徳の
背中からジョシュアに抱かれ、うつ伏せにベッドへ倒れ込む。お尻の間に当たる感触に身震いする。お腹の奥までその震えが届くような気がした。
「はぁ、あぁあ」
「ティティス、声」
手で口をふさがれた。
「んんん! んんっ!!」
ジョシュアは耳元へ舌を伸ばしてきた。
軽く腰を揺すってみる。
「うぅん!」
ティティスの腰へ回した手を脚の間へ滑り込ませると十分すぎるくらい濡れている。
「ん! んん! んんっ!」
愛液をまとわりつかせた突起を指先で転がす。ぎこちなくはあったが、腰から下の動きに合わせてみると、腕の中でティティスは
一番奥からゆっくり指を引き抜き、腰が立たないでいるティティスをジョシュアは軽々抱き寄せた。
いささか性急に身を沈めていった。
ティティスがあえいで、ジョシュアも同じかそれ以上に快楽に溺れた。暗がりでティティスには見えなかったが、青い瞳が興奮で淡く紫がかっていた。息づかいや張りつめた肉体の脈動がティティスにそのことを伝えた。
すがる場所を探すように伸ばした腕がジョシュアの背へ絡む。
ジョシュアはそうするのが当然だというようにキスしてくれた。他の誰とも分け合わない二人だけの歓びだった。ティティスは全て投げ出さんばかりに全身でジョシュアを信頼していたし、ジョシュアはそれを残らず受け止めた。
やがて静かになった。
ティティスは、うつ伏せに横たわっているジョシュアの裸の背中を枕にして、うとうとと眠りのふちをさまよっていた。
「ティティス」
ジョシュアも気だるそうだった。
「寝たのかい」
「うん――」
「起きてるなら、ちょっと頭を持ち上げてくれないか?」
ティティスがのろのろと体を浮かせた隙に、ジョシュアは寝返りを打って仰向けになった。
「もういいよ」
ティティスの頭は胸の上に落ちてきた。波打つ亜麻色の髪をジョシュアが手で
ふいに廊下から部屋のドアを
「ティティス、いるの? 起きてる?」
ミロードの声であった。ティティスがはたと目を見開いた。ドアの方を振り返った。
「お、起きてるけど、何か用?」
「ジョシュアが戻ってこないんだけど、どうしたかあなた知ってる?」
体の下でジョシュアが思わず息をひそめたのがわかる。
「あ、さあ、疲れてたみたいだから部屋で寝てるんじゃない。あたしも寝ようとしてたのに、おかげで目が覚めちゃったわ――きゃ!」
「どうかした?」
「な、なんでもない! ごめんなさい、もう寝かせてくれない?」
とミロードを追い返してしまった。
足音が遠ざかって階下へ消えてから、ティティスはお尻をなでているジョシュアの手をぺちんとはたいた。
「もう、急に何するのよ」
ジョシュアは困ったように眉根を寄せて笑った。
「君も随分口がうまくなったよ」
「なによ、別にうそはついてないわよ」
「もう寝かせてほしいっていうのも?」
きょとんとしているティティスの手を取って引き寄せる。
「君にしてあげようと思ってたことの半分もまだ済んでないのに」
夜はまだまだ長いらしい。
寝床の上で二つの影が重なって、長い間一つの生き物のようにうごめいていた。
(了)