短い休暇
久しぶりの帰港だった。――年中船の上で寝起きをしていて、今更帰る家も何もあったもんじゃないが、それでも海賊湾にあるこの港へ入るとなんとなく、
(帰ってきた)
という気分になるのだ。
船員たちには短い休暇を与え、浮かれたやつらは思い思いのところへ出かけていった。一人船に残った俺は
他にも伸びた髪を切ったり、靴を直したりと細々した用事を片付けたが、日暮れも間近くなってきた頃、
「おーい――!」
と桟橋から呼ぶ声がして、すぐにその声の主の顔が思い浮かんだ俺はにわかに慌てた。まだ素っ裸のままだったのだ。
干してあったズボンを急いで取って
思い浮かんだとおり、例の赤毛の女剣士がこっちへ手を振っている。
「おーい、帰ってきてたんだって? そっちへ上がってもいいかい?」
俺は、別に嫌じゃないしむしろ喜んでいるくせに、わざともったいつけてから、いいぜと答えた。
「誰に聞いたんだ?」
「酒場に行く途中であんたのとこの乗組員に会ったんだよ」
と言う。言ってから、形のいい鼻をスンとひくつかせた。
「なんかいい匂いがする――」
と、その鼻をこっちの肩先まで近づけてこようとするので、俺は一歩後に下がった。
「よせよ。ただのシャボンの匂いだ」
「なんだ」
「なんだって――何だと思ったんだ?」
「? 何って?」
「いや――」
いい、なんでもない、と俺はかぶりを振った。こいつの口から色っぽい話が出ることを期待してもしょうがない。
「そういえばずいぶん痩せたね」
と、まじまじ見られながら言われた。
(おまえは相変わらず健康的で結構なことだな)
と、俺は心の中でだけ言い返した。こういうことは悪意がなかったとしてもデリケートな話題だからである(これをたとえば酒場の女主人に言ってしまったら、「どういう意味!?」と詰め寄られての
そいつは、俺の内心のことなど知らず、勝手に続きを
「酒場に行って、たっぷり食わせてもらうといいよ。近頃はロブスターが
俺はそいつの、そのいかにも健康そうな体ばかり見ていた。いつでも生命力が全身に満ちている。しかもその力が絶えず内側からあふれ出ようとしているように、みっちりと張り詰めた肉体の持ち主だった。
「酒場では、ローストと、殻ごと煮込んで
と言いながら唾を飲み込んで動いた喉の下、首から下げた革紐の掛かった深い鎖骨、そこからさらに下りて、ペンダントが微妙な陰影を作っている胸の谷間――シャツの胸元から
「ローストの方も絶品だよ。身がずっしり重くて、プリッとしてて。しかもジューシーで、あふれてきたスープまで口を付けて全部すすりたくなるくらい」
「――
と俺も生唾を飲んだ。
「だろう? なあ食べに行こうよ。もう腹ぺこなんだ」
「そうだろうな」
俺はつい笑ってしまった。こいつのさっきの熱心な話しぶりからすれば、さもあらんと思ったのである。
洗濯物の方へ行ってシャツを取ると、こっちはもうすっかり乾いていた。
「早く早く」
と俺の支度を急かす声が後をついて来る。俺が
日が暮れ始めており、
「足元に気をつけろよ。その辺でさっき靴を直したんだ、まだ片付けてない――」
と、俺が注意を促そうとした
思わぬ
(了)