灰
「嫌だよ、今夜は疲れているからね」
と、芥川はそっぽを向いて火鉢の前で煙草を
「じゃあなんで夜中に人の部屋にいるの……?」
と首をかしげている。
「―――」
「………」
芥川は背中に島崎の気配を感じた。振り向いてやるものかと思っていると、不意に島崎の手が懐へ回って来て、
つ、
と着物の合わせ目から胸元へ手を入れられたので、さしもの芥川も飛び上がって驚いた。ぎゃっ、とあまり色気のない悲鳴が上がった。
「たまには……いいじゃない……こういうのも」
と、耳元で島崎の陰気な声と
「ひ」
芥川は反射的に首を反対へそらしたが、そちら側にも島崎の指が
島崎は芥川の耳たぶを吸いながら、その懐深く手を入れてきた。芥川は丹前の下に浴衣を重ねて着ていて、島崎の手は浴衣と素肌の間へ忍び込んだ。少年のごとき細く小さなそれが、ねっとり肌に吸いつくように
耳元にある唇と舌も、芥川の厚い
「ン――」
と、芥川の鼻先からくぐもった声が漏れる。「ふ」と島崎が笑ったような息が耳にかかって、それが芥川には
「君、可愛いね……」
などと言われるとますます腹が立つ。年若い少年のような
「っ!」
ギクリと芥川の肩が
「これ好き……?」
人差し指の先で乳首をくにくに転がすと、芥川の首の付根辺りまで鳥肌が立った。島崎はそこへも柔らかく音を立てて
「っ、あ――うぅ――」
と芥川が呼吸を乱すのを島崎は愉快がっている。
「ねぇ……」
と、芥川にこちらを向かせて唇を奪った。芥川が嫌な顔をしたのがわかったが、構わず吸った。ぽってり厚い下唇をやわやわと
「ん――!」
芥川が、ぞっと性感に訴えるようなうめき声を島崎の唇へぶつけた。島崎の指に挟まれた乳首がその間でこねられて、針で刺すような刺激を下腹の方にまで生じた。
島崎は誘うように唇を開いた。芥川は、応じそうになった。舌の先をそこへ潜り込ませそうになった。
が――
「! アツッ――」
と、急に身を引くと、右手の甲にぽろりと落ちた煙草の灰を慌てて火鉢の中へ払い落とした。
それで、やっと我に返って、首まで真赤になって、火鉢の上にうずくまった。島崎も少々照れくさそうに、芥川から離れてうつむいた。
「やっぱり照れるね……こういうの……」
まあ僕もこう見えて成人しているからね……と言う。
「いろんなことがあったよ……」
と言いかけたところへ、芥川の手が伸びてきた。手首をつかんで畳の上へ引きずり倒された。
芥川は怒ったような顔をしながら、いつになく性急に島崎の着物の裾を割って挑みかかってきた。
島崎もそれ以上言うでもなく、芥川の触れたところからこみ上げてくる快い愉悦に身を任せた。
(了)