微睡

 薄明に夜具の下で目覚めると、珍しいこともあるもので、芥川のかいなの中にすっぽりと抱き込まれていた。平時ならたいてい布団の端と端で背中を向け合っているところなのに。
 まあ、別に、島崎も悪い気はしなかった。とはいえ、目も覚めたことだから、起き上がって小用の一つも済ませたかった。が、芥川の両手が背で固く組まれていて這い出すこともできない。
「ちょっと、君……」
―――
「君、君起きているんじゃないの?」
――芥川龍之介はこんな真似はしない」
 と、芥川は目をしっかりとつぶったまま妙なことを言い出した。
「してるじゃない、現に」
「僕は今眠っているのであって、眠っている間のことについてまでは“芥川龍之介”の責任の及ぶところではないからね」
「眠っていると言ったって……喋ってるけど?」
「これは寝言だよ」
 などとのたまう。あまつさえいっそう身を擦り寄せられて、結局島崎も、
「僕が漏らすまでには離してよね……」
 と観念した。

(了)