夕寝
日頃付きまとわれてあれこれ根掘り葉掘り聞かれることに嫌気が差しているからといって、では興味を持たれないでいれば心安らかでいられるのかといえばそうでもないらしい。
共寝している島崎が今夜はどうも上の空な様子なのが、芥川には何やら面白くなかった。
「ん……んッ……」
島崎は寝床へうつ伏せになって背中から芥川を受け入れながら、組んだ細腕に頭を預けてぼんやり遠くを見ている。芥川が動けば反応はするが、いつものように熱心ではなかった。
平時こんなことはさっさと済ませようと言ってそっけない芥川も、さすがにつまらない気持ちがして、
「あのねぇ、君――」
とぼやいた。自分も布団に体を預けて側位になり、島崎の膝を片方抱えて強く引き寄せた。下腹の結合が深くなった。
「あっ」
いつもはキスをねだられても拒む芥川が自ら島崎の顔をこちらに向けて貪りついた。
「んン……何? どうかした……?」
口が離れると、島崎がうっとりと目を細めて尋ねた。
「それは僕の方が聞きたいのだけどね」
と、芥川はできるだけ冷ややかな声色を作ろうと苦心した。やきもちなど妬いていると思われてはたまらなかった。
「今日は随分上の空じゃないか、君」
「ああ……」
と島崎は合点がいったらしい。
「君じゃない人のことを考えていたから……」
「誰だいそれ」
「秘密……ぁん、ンンッ!」
芥川は再び島崎の口を貪って、彼の痩身の知る限りの性感帯に両手で愛撫を加えた。島崎はその全てに悶え啼き声を上げて応じた。
島崎は寝床へ四足を着いて、芥川が後ろから改めて入ってくると、その猛々しさに手足が震えた。
「そこ……」
奥の方に男根の先で突かれるとビリッと痺れるようなところがあって、それだけでも目の眩むような思いがする。芥川は島崎の片手を取って二人つながっているところへ触れさせた。まだ根元の方が余っていた。
「これ以上はだめ……」
と島崎が珍しく気弱な声を上げた。
「おかしくなっちゃうよ……」
「なりなよ」
と、芥川が低くかすれた声でささやく。腰をぐっと押し込もうとする。島崎がたまらず逃れようとしたのを捕まえて、己の体に引き寄せながら最奥まで肉壁を分け入った。
「あぁ、あッ! ああァッだめ、だめだって……!」
と島崎は、芥川に軽く腰を揺すられただけでも弱りきった声で喘いだ。芥川も多少心配になってきて尋ねた。
「痛むのかい」
「痛くはないけど……そこ……入っちゃだめなところじゃない……?」
「かもね――」
と言いながら突き上げた。弱った声を上げたいのは芥川も同じだった。下腹からこみ上げてくる愉楽を奥歯を噛み締めてこらえながら、島崎の華奢な体を責め立てた。
「っは、っ! んンッ! んんんッ!!」
島崎も小さな口に枕を懸命に噛んで悲鳴をこらえた。いくらもしないうちに前の方がたまらなくなってぼたぼたと白濁した体液を垂らし、布団を汚した。
「はぁ、はぁっ、あぁまた……!」
と立て続けにもう一度達した。
芥川は軽々と島崎を抱き起こして背中から抱えた。島崎が首を後ろへ回してキスをせがんでくるのにはためらわず唇を与えた。
「厭らしいな吸い付いてくる――」
と芥川がキスの合間にぼんやりとささやいたのは、その口元のことなのかそれとも別のところのことなのか知れない。
「誰のせいだと思ってるの」
と死魚の目を恍惚と潤ませている島崎になじられて、芥川はなんともいえぬ満足感を覚えた。島崎の――おそらく自分しか知らない――体の奥の奥を、思うさま侵して彼がそれに乱れる姿に異様な興奮を覚えた。
「今日はやけに凄かったね、君……」
と、何もかも済んでから島崎が言った。今夜はもう腰が立たないから芥川の部屋に泊まるのだと言い、一つ布団に同衾しようとして迷惑がられていた。
「君、他に気にかかる
「? 何の話?」
「自分でそう言ったじゃないか――僕以外の
ああ、と島崎は思い出したらしい。
「あれはね、明日締め切りの新聞の原稿について考えてただけだよ」
「だって君、僕じゃない人のことって」
「僕自身のことだもの。僕だって、君じゃない人には違いないでしょ」
と屁理屈を言う。
「―――」
芥川は狐につままれたような、なんとも間の抜けた面をさらしてしまった。
(了)