池の端

 図書館の中庭にも薄く霜の降りた寒い朝のことであった。
「うう、寒い――
 と、中島は骨まで染みるような寒さに震えながら庭池のアヒル当番のために外へ出てきた。
 アヒルに餌をやるために池の淵に立ったが、どうにも凍えて敵わない。自然自分で自分の肩を抱いて、それをこすって温めようとして、
―――
 急に何か恥じたようにその腕を解いた。顔に血を上らせてうつむいた。
――朝っぱらから助平だなぁ」
 と、眠たげな声が中島の背へ投げかけられた。池端のベンチにだらりと座っている太宰が、あきれたように半眼になってこちらを見ていた。
「な、なんですか太宰さん、私は別に」
「どぉーせ自分を抱いて、あっ、つい無意識にこんなこと、もう一人の中島君に抱き締められてるみたい、とか思ってたんでしょう」
「うっ」
 どうやら図星であったらしい。むにゃむにゃと胡乱うろんな弁解をしている中島を、太宰はしばらく眺めていたが、ふいに腰を上げて、
「そんなに寒いんなら、俺があっためてあげようか」
 と、近づいてきた。
「えっ、結構です」
「そんなこと言わずにさぁ」
 と言ってすらりと長い腕を広げる。中島は身構えたが、太宰はすぐには腕を絡めて来ず、何か思案している様子だった。
「そうだ中島君、さっきみたいにして」
「えっ?」
「だから腕をこうね――
 と、中島の手を取って自身の腕を抱かせると、太宰はその上からきつく抱き締めて、二人とも三人ともつかぬ二つの体をけばけばしいの羽織でくるんだ。

(了)