冬の朝

 霜のきつく下りた朝のことであった。
「冬の朝は布団から出られないんだよね」
 などと公言してはばからない芥川龍之介は、その朝もぬくぬくした寝床の中で惰眠を貪っていた、が、
―――
 ふと目を開けて見下ろすと、自分の寝床の腰から下の辺りがこんもりと盛り上がっていて、掛布団の下で何かごそごそうごめいている。それに下腹部にいかんとも形容しがたい感触がしていた。
 芥川は、ちら、と掛布団をめくって中を見て、
――うわ」
 と見てはならないものを見たとでも言いたげに、布団を戻して、さもこれは夢だと言わんばかりにもう一度目をつぶった。
「……ちょっと、君」
 と、布団の中から陰気な抗議の声がする。と同時に芥川は鼠径部そけいぶにかかる息と熱くぬめった感触を感じてたまらずあえいだ。
「あぁッ――って、君ね何をしてるんだいそんなところで」
 寝床の中でしばしバタバタゴロゴロと攻防があって、ついに芥川が掛布団をばさりとはぐると、下肢の上に島崎が乗りかかって、しかもその小さな口に芥川の反り返った陽物をくわえている姿があった。
「おはよ……」
 と島崎は上目遣いになって言った。
「起こしに来たよ……今日は朝一番で潜書でしょ、君」
 僕も同じ会派だから、と言って、陽物を口に深くくわえ込んで出したり入れたりする。
「う、うわッ、ちょ、待ってくれ君これは、性的暴行――
「………」
 これでも? と言う代わりに島崎は芥川の張り詰めた陽物の裏側をツツと舌先でなぞった。
「最近ちょっとは上手くなったと思うんだけど……」
 先をくわえてちゅーっと吸い上げたり、離して舌でもてあそんだりを繰り返す。口の中で肉叢ししむらが脈打つのを感じて、嬉しそうに目を細めた。
「若いねぇ……」
 それに頬擦りまでして「熱い……」とうっとりつぶやく。
 島崎は自分でズボンと下穿きだけ脱いで、膝でにじり寄って来た。
「朝からそれじゃつらいよね……お兄さん﹅﹅﹅﹅が今楽にしてあげるよ」
年寄り﹅﹅﹅の間違いじゃないのか――
 という芥川の嫌味も島崎は意に介さない。芥川の下腹を跨ぐと、ゆっくり腰を沈めていった。
「あ、アッく――!」
 島崎は、どこでそんな技巧を身に着けたのかと芥川が思わず聞きたくなったくらい巧みに動いた。
「あっ、あっ、ねえ君、気持ちいい? だらしない顔してるよ……可愛いね」
 そう言う島崎自身もとろんととろけた顔で快感にあえいでいる。芥川もたまらなくなって、やがて自分が上になると夢中で交わった。
「あっ、ああイイ、いいよ芥川、芥川、芥川……!」


「芥川、芥川ー……朝だよ、起きて……」
 という陰気な声とともに外からドンドン遠慮なく戸をたたかれる音で、
 はた!
 と芥川は目を覚まして、
「うわッ!?
 と、跳ね起きてみたが、寝床の中に島崎の姿はなく自分一人きりであった。布団から出ると朝の空気が身を切るほど冷たい。
「うぅ寒い! 寒々――
 もう一度布団の中に頭まで潜り込んでから、部屋の外で自分を呼んでいるのが夢でない本物の島崎であると気づいた。
「芥川、潜書の時間だよ……」
「起きているよ!」
 と大きい声を出すと、島崎は自分の任は果たしたと思ったらしくさっさと部屋の前から去って行った。
 芥川はほっとして、下腹部へ手を伸ばすとしかしそこは尋常でない事態である。再び顔色が曇った。
(夕べ寝る前に読んだ本が悪かったんだ)
 しぶしぶ寝床をい出した。
「ああ寒、ううう寒い、寒い寒い寒い――
 枕元に読みさしのまま伏せてあった書生と人妻ものの艶本は寝床の下に押し込んでしまって、芥川はようよう、のろのろと身支度を始めたところであった。

(了)